がんについて知る

緩和ケアの概要

がん患者の「生活の質(QOL)」

目次

  1. がん医療における「生活の質(QOL)」とは
  2. QOLを維持する治療やケアについて


がん医療における「生活の質(QOL)」とは

がんにかかると患者さんの生活は多かれ少なかれ変化します。治療前にできていたことができなくなることもあるでしょう。現代の医療では、そのような中でも、患者さんが自分らしい生活や人生を保つことを目指します。

そこには患者さんの心や身体の状態、社会的、経済的な状況など全てを含めて「生活の質」と捉え、その質を維持しようとする考え方があります。皆さんがよく目にする「QOL」という言葉はクオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life)の略で、それがまさにこの「生活の質」を指しています。

QOLを維持する治療やケアについて

かつてがんの治療は延命第一で痛みやつらさは我慢するしかない時代がありました。しかし、最近では医療の進歩とともに治療効果だけでなく患者さんのQOLを重視した取り組みが広がっています。病と向き合っているその間も患者さんにとっては大切な人生の一部だからです。ここでは治療中の痛みやつらさを和らげたり、その人らしい生活を送ったりするための医療サポートについて紹介します。

・心と身体の苦痛を和らげる「緩和ケア」
がんの症状や治療には、多かれ少なかれ身体的苦痛(痛みや吐き気など)が伴います。身体的苦痛によって、不安や恐れ、抑うつなど心の痛みが生じることもあるでしょう。

身体と心はお互いに関係しあい、心の混乱が体調の悪化を招いたり身体の変調で心が落ちこんだりすることは珍しくありません。そのような身体と心の苦痛を総合的にケアしQOLを維持向上させる医療が「緩和ケア」です。

緩和ケアといえば「終末期医療」「治療をあきらめた時に行うもの」といった間違ったイメージを持たれていることも多いのですが、実際にはがんと診断されたときから始めることができるものです。

・緩和ケアの早期導入はQOL向上に有効です
最新の研究から早期の緩和ケア導入が患者さんのQOLを高めることがわかっています。

例えば、手術が難しい進行性肺がん患者さんを対象に、抗がん剤治療のみ行うグループと抗がん剤治療に加え月1度緩和ケアチームによる外来受診を行うグループ(早期緩和ケアグループ)に分けて経過を調べた研究があります。

早期緩和ケアグループには、緩和ケア専門医やがんの専門看護師などの専門チームが身体症状に対処するだけでなくQOL向上のための相談や治療法選択の意思決定支援などにあたりました。

その結果、早期緩和ケアグループはQOLが高かっただけでなくうつ症状も少なく生存期間の延長がみられたのです。他の研究結果を考慮すると緩和ケアによる延命効果については引き続き検討が必要ですが、早期の緩和ケア導入ががん患者さんのQOLに寄与をさせるすることは科学的に証明されています。

・緩和ケアを受けるためには
緩和ケアは希望すれば、がんの進行度や病状を問わずいつからでも受けることができます。

入院だけでなく通院や在宅にも対応します。担当医や看護師などがん治療のスタッフが緩和ケアを提供することもありますが、専門の緩和ケア医や、緩和ケアチームがあたった方がよいケースもあります。緩和ケアを受けたいと思ったらまずは担当医に相談してみましょう。入院・通院している病院で緩和ケアを実施していない場合や、担当医に話すのが難しい場合には、地域の「がん相談支援センター」に相談をしてみてください。相談窓口については治療中の相談先を参照ください

・心の苦痛は我慢せずに周囲に伝えましょう
がんになると多くの人が心の苦痛を抱えます。その程度や質は個人差がありますが、不安や落ち込みなど心の変化に気がついたら我慢せず周囲に気持ちを伝えてみてください。

家族や身近な人に話を聞いてもらうだけでも心が軽くなるはずです。同じ病気を体験している人や、医師や看護師に話を聞いてもらうのもよいでしょう。それでも落ち込みや不安、恐れが続くときには心のケアの専門家を頼るという方法もあります。

心の痛みについてはメンタルケアについて知るでも詳しく説明しています。

・身体機能の維持・回復には「がんのリハビリ」を活用しましょう
がんは他の病気と異なり治療による副作用や手術の後遺症で身体機能が低下することが多々あります。それが原因で日常生活に支障をきたし心理的葛藤を生じることもあります。がんにおけるリハビリテーション(以下、リハビリ)は、そのような身体的、心理的問題に対処しQOLの維持や回復をサポートする医療です。

通常は何らかの障害が起こってから受けることの多いリハビリですが、がんの場合は障害の予防が重視され、診断されたタイミングから病状や症状によらず受けることができます。

治療選択の際は治療効果だけでなく、副作用や後遺症などでQOLにどのような問題が生じるのか、またどのような対応策があるのか担当医に確認してみましょう。

【参考文献】
「国立がん研究センターのこころと苦痛の本~こころと体のつらさを和らげるためにできること~」(小学館クリエイティブ)
「世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療」(ダイヤモンド社)
国立がん研究センター「がんの療養とリハビリテーション」(外部サイト)
※別ウインドウで開きます

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監修者
勝俣 範之
医師・がん薬物療法専門医 日本医科大学武蔵小杉病院 腫瘍内科 教授

1963年山梨県富士吉田市生まれ。1988年富山医科薬科大学医学部卒業後、徳洲会病院で内科研修、国立がんセンター(現:国立がん研究センター中央病院)で、レジデント、チーフレジデント、内科スタッフ、医長を歴任。腫瘍内科学の推進、啓発、教育に従事。研究面では、婦人科がん、乳がんの薬物療法の開発、臨床試験に携わる。2011年10月より、20年間務めた国立がん研究センター中央病院を退職し、日本医科大学武蔵小杉病院で、腫瘍内科を立ち上げた。診療・教育・研究の他、がんサバイバー支援にも積極的に取り組んでいて、正しいがん情報の普及を目指して、ブログ、ツイッター、フェイスブックを通し、情報発信している。近著に「医療否定本の嘘」(扶桑社刊)、「世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療」(ダイヤモンド社刊)がある。 所属学会:日本臨床腫瘍学会、日本癌学会、日本癌治療学会、日本内科学会、American Society of Clinical Oncology