肺がんの種類と発症要因
呼吸に関わる肺の仕組み
肺は、上半身の背骨と肋骨に囲まれた胸郭(きょうかく)のなかに左右1つずつあります。
肋骨と接する部分には切れ込みが入っており、その切れ込みで分かれた部分を「肺葉(はいよう)」と言います。右肺には3つ、左肺には2つの肺葉があります。
肺の入り口にあたる部分を「肺門(はいもん)」、それ以外の肺の本体部分を「肺野(はいや)」と言います。
肺は二重の胸膜(きょうまく)で包まれ、内側の「臓側胸膜」と外側の「壁側胸膜」の間は「胸水(きょうすい)」で満たされています。
喉頭からのびる気管は肺門の前で左右に枝分かれし「主気管支」となります。気管支の先端には「肺胞(はいほう)」という小さな袋が無数にあり、この肺胞が酸素と二酸化炭素の交換を担っています。
肺がんは身近な病気で、治療法は日進月歩
日本全国で1年間に肺がんと診断される人は12万人以上。肺がんは非常に身近な病気です。
60歳を超える頃から高齢になるほど肺がんにかかる確率は高くなり、たばこを吸う習慣のある人のリスクが高いことがわかっています。
治療法は手術、抗がん剤などの薬物治療、放射線治療、レーザー治療などがあり、病気の進行状況に応じた標準治療が確立されています。また、特定の細胞を効率よく狙う分子標的薬や、免疫機能にはたらきかける新しい薬の登場などで治療効果は着実に進歩しています。
治療法について詳しくは「肺がんの病期(ステージ)と手術・放射線治療・薬物療法」で紹介しています。
肺がんは4つに大別
肺がんは、気管支や肺胞の細胞が何らかの原因でがん化したものです。顕微鏡でみたがんの「顔つき」、つまりがん組織の病理学的な性質から肺がんは「非小細胞がん」と「小細胞がん」の2つに分けられます。
さらに「非小細胞がん」の中には「腺がん」、「扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん」、「大細胞がん」の3つがあります。
他にも種類がありますが、肺がんのほとんどは「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」「小細胞がん」の4つに分類されます。この4つについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
非小細胞がん
・腺がん…自覚症状のない症例も多くみられます。X線検査で発見されやすく肺野に多く発生します。肺がん全体の約5割を占めます。
・扁平上皮がん…喫煙と深く関係し男性に多くみられます。肺門付近の太い気管支に発生することが多いです。肺がん全体の約3割を占めます。
・大細胞がん…大きな細胞からなるがんです。主に肺野に発生します。
小細胞がん
ほかの組織型のがんと比べて細胞の形が小さく密集して増殖します。脳や骨などほかの臓器に転移しやすいですが、抗がん剤や放射線治療が効きやすい性質があります。喫煙と関係があり、肺がん全体の約1~2割を占めます。
「肺がんならでは」という症状はある?
「この症状が出ていれば、絶対に肺がんだ」という特有の症状はないため、早期発見のためには検診が有効です。
ただし、扁平上皮がんや小細胞がんなど肺門にできるがんの場合は、比較的早期から症状が出ることがあります。
たとえば、いつまでたっても治らない咳や胸の痛み、息切れや動悸、声のかすれ、痰に血が混じることなどです。ただし、そのいずれもが風邪などほかの呼吸器疾患でもみられる症状のため、発見が遅れることがあります。
喫煙で発症リスクは高まる?
肺がんのリスク要因としてよく知られるのは喫煙です。喫煙者は非喫煙者と比べて男性で4.4倍、女性では2.8倍肺がんになりやすいと言われます。
また、喫煙を始めた年齢が若く、喫煙量が多いほどリスクは高まり、間接的にたばこの煙を吸う「受動喫煙」でも発症リスクは高まることがわかっています。
なお、喫煙の年数によらず禁煙にはメリットがあります。10年間禁煙が続けば、肺がんのリスクが喫煙者と比べて約半分に低下するとの報告もあり、肺がん治療中の患者さんにとっても禁煙は有効です。
喫煙以外の要因としては、アスベスト、ラドン、ヒ素、クロム酸、ニッケルなど有害化学物質を扱う職業、PM2.5(粒径2.5μm以下の微小浮遊粒子)などの大気汚染があります。
【参考文献】
国立がん研究センターウェブサイト 肺がん
https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/index.html
「国立がん研究センターの肺がんの本」(小学館クリエイティブ)
「患者さんのための肺がんガイドブック 2019年版」(金原出版)
- 監修者
- 栁谷典子
- 医師・日本呼吸器学会専門医・指導医 公益財団法人がん研究会 有明病院 呼吸器内科 副部長
1998年、聖マリアンナ医科大学医学部卒業。2003年群馬大学医学系研究科学位取得。(1998年より)群馬大学医学部付属病院呼吸器・アレルギー内科などを経て2009年よりがん研究会有明病院呼吸器内科勤務。2019年より現職。専門は肺がん、呼吸器内科。編著に、『がん研有明病院のプラクティス 肺癌薬物療法レジメン 第2版』(2021年、中外医学社)。