がんはほかの病気とは違い、治療後5年を過ぎてはじめて根治したものとみなします。再発と言って、がんがぶり返すことがあるからです。肺がんの再発は治療後1~2年の間に起こることがほとんどです。肉眼では見えない小さながん細胞が、治療をすり抜けて残っていたことが原因です。再発がんについて、最初に見つかったがんやその周辺にできたものを「局所再発」、別の臓器にできたものを「遠隔転移」と言って区別します。
再発がわかることは、患者さんにとって初回の告知よりも大きな衝撃となることが少なくありません。しかし、それはごく当たり前の心の働きでもあります。もしも、再発によって不安や恐怖、つらい気持ちを抱えているならば、医師や看護師にも伝えるようにしてください。必要があれば専門的な心のケアを受け、治療や療養に関してあなたらしい選択を行えるようにしていきましょう。
肺がんの再発の起こりやすい部位
再発の起こりやすい部位は、肺内や肺門、縦隔などのリンパ節や鎖骨の上にあるリンパ節などです。遠隔転移などの場合には、脳、骨、肝臓、代謝や血圧上昇に関するホルモンを分泌する副腎などがあげられます。
また、肺がんの種類によっても再発しやすい部位の傾向は違います。非小細胞がんのひとつである腺がんは肺や骨に、小細胞がんは脳に転移することが多いと言われています。
再発が疑われる症状と検査の方法
肺がんは、遠隔転移による再発が全体の8割を占めます。持続的な骨の痛みや骨折、視力障害や運動障害、疲労感の持続や黄疸などといった肺以外の自覚症状から再発が判明することも少なくありません。
肺以外で再発が見つかることが多いと聞くと、肺の周辺にできたがんを発見することが主目的となっている、治療後の定期検査について再考すべきではないか思う方もいらっしゃるでしょう。
しかし、がんがどこに転移しているわからない状態で全身を検査するとなると肉体的、経済的な負担が大きく現実的ではありません。
そのため、定期検査では腫瘍マーカーや血液検査などによりモニタリングし、異常が認められた場合に必要な検査を実施する形がとられています。からだに違和感や自覚症状が認められる場合には、定期検査に限らず早めに受診して検査を受けることも重要です。
これらの検査について、詳しくは「肺がんの様々な検査」を参照してください。
再発・遠隔転移したがんの治療法
手術後に肺がんが再発した場合の治療法としては初回治療と同様、手術、放射線治療、薬物療法があります。どの治療を選択するかは、がんの性質、再発している部位や数、初回治療の内容などから検討します。
一般的に遠隔転移による再発には、抗がん剤による全身療法を選択します。治療の目的はがんを縮小または大きくならないようにし延命すること、あるいは痛みなどの症状を和らげ日常生活を送れるようにすることです。肺がんで骨や脳に転移がみられる場合には、放射線治療で症状を和らげることもあります。そのほかに、痛みや苦痛を和らげる緩和ケアも併用していきます。
骨転移や肩・腕の痛みに対する対処法
骨転移による痛み
肺がんは骨に転移しやすく、進行すると日常生活に支障をきたすこともあります。骨転移が見つかったら骨転移の進行抑制や骨折予防、痛みを緩和する治療を、がんそのものの治療と同時並行で行います。
治療法としては、薬物療法や放射線治療、経皮的椎体形成術(けいひてきついたいけいせいじゅつ)(※1)などがあります。
放射線治療では、痛みの緩和やもろくなった骨の安定などが期待できますが、効果が表れるまでには数週間から数ヶ月程度かかります。治療後は、骨に負担がかかるような激しい運動や動作はせず経過に注意しながら過ごすことが重要です。
※1経皮的椎体形成術:骨のもろく弱った箇所に骨セメント製剤を注入して補強する治療法。「骨セメント」とも呼ばれ、骨粗しょう症の治療によく用いられます。
肺がんによる肩や骨の痛み
がんが背骨に転移し広がると、脊椎のなかの脊髄を圧迫し、肩の痛みや手足のしびれ・麻痺を生じることがあります(脊髄圧迫症候群)。
また、がんが鎖骨周辺の神経を圧迫すると腕のしびれや脱力感が起きることもあります(腕神経叢(わんしんけいそう)障害)。
このような再発によるからだの痛みの軽減には薬物治療を用います。どのような薬を用いるかは、障害の内容や、痛みの段階に応じて使用する薬の指針をまとめた「WHO3段階除痛ラダー」(※2)などを参考に検討します。
※2WHO3段階除痛ラダー:鎮痛薬を痛みの強さによって段階的に進めていくという、がん性疼痛治療に対する薬物療法の基本的な考え方のこと。
【参考文献】
国立がん研究センターウェブサイト 肺がん
https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/index.html
「国立がん研究センターの肺がんの本」(小学館クリエイティブ)
「患者さんのための肺がんガイドブック 2019年版」(金原出版)