胃がん手術後に起こる症状
一般的ながんは、5年再発しなければ完治したとみなされます。治療を受けた後も、定期的に検査を受けるようにしましょう。からだに起こっている変化を理解して穏やかに生活することを心がけましょう。
胃を切りとった場合、胃袋が以前のように戻ることはありませんが、時間が経つにつれて、生活を元に戻すことは可能です。規則正しく、少しずつ、段階的に元の生活に戻していきましょう。
症状や治療の状況によって、日常生活での注意点は異なります。症状が重くなったときはどうするか、あらかじめ医師と相談しておくと安心です。
内視鏡治療の場合は,胃の機能が大きなダメージを受けないので、早めに体力を回復することができ、基本的には治療前と同じように食事もとれます。退院後2〜3週間で日常生活に復帰できることが多いようです。
開腹手術や腹腔鏡手術後に起こることの多い症状には次のようなものがあります。
・ダンピング症候群
胃が正常に働いていると、食物は胃の中で混ぜられて少しずつ腸に入っていくのですが、手術により胃が小さくなったりすることによって、食物が直接腸に流れ込むために、さまざまな不快な症状が起こります。これをダンピング症候群といい、胃の全てを摘出した時や、胃の幽門部を切除したときに起こりやすくなります。食後すぐあとに起こる「早期ダンピング症候群」と、2〜3時間後に起こる「後期ダンピング症候群」があります。
早期ダンピング症候群は、血糖値が急に上昇することで、発汗、めまい、脱力感、動悸などが起こります。糖分を多く含む食事を控えたり、食事の回数を増やして1回の食事量を減らしたりすることが予防につながります。
後期ダンピング症候群は、腸で急速に糖質が吸収されることで、インスリン(血糖値を下げるホルモン)が大量に分泌し、逆に血糖値が下がり過ぎてしまうことで起こります。症状は早期ダンピング症候群と同じようにめまい、脱力感、発汗、震えなど。症状が起きやすい食後2〜3時間のタイミングで、アメやチョコレートなどの糖分を含むものを食べるなどして対処しましょう。
・逆流性食道炎
胃の入り口(噴門)の切除により、胃液や腸液、胆汁などの苦い消化液が逆流することで起こります。胸やけなどの症状が出ることがあるので、夕食は就寝の2〜4時間前までにとるようにして、脂肪の多い食事は控えましょう。症状がひどい場合は服薬で治療することもあります。
・貧血
胃の切除、特に全摘出をした後は、赤血球をつくるために必要なビタミンB12や鉄分の吸収が悪くなり、貧血を起こしやすくなります。ビタミンB12は肝臓に蓄積されているので、この不足を原因とする貧血の症状は胃切除後すぐに出ることは少なく、数年後にみられることが多いです。定期的に血液検査をして貧血がないかチェックし、普段から鉄分を多く含む食品を意識して摂るようにしましょう。
・骨粗しょう症
胃切除後はカルシウムの吸収が悪くなるため、骨が弱くなり、骨折しやすくなります。特に女性は注意が必要です。カルシウムを多く含む食品を意識して摂り、必要に応じてカルシウム剤やビタミンD製剤を服用します。また、骨折を防ぐには筋力を強化するための運動も大切です。
療養生活で気をつけるポイント
・食生活
食べる時の基本を「少しずつ」「何回かに分けて」「よくかんで」「ゆっくり」と定めましょう。切除して小さくなったり再建したりと、治療によって新しい状態になった胃腸に応じた食べ方に、少しでも早く慣れることが大切です。
また、水分を摂るときは、固形物を食べてから30分〜60分の時間を開けるようにしましょう。腸がゆっくりと時間をかけて固形物を吸収することにつながります。
手術後の食事については患者さんの習慣や好みも考慮しつつ、栄養士など専門の医療スタッフに相談しながら、一人ひとりに合った食事スタイルを探していきます。
禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、適度な運動など、日常的に心がけることが大切です。規則正しい生活を心がけ、体調の維持や回復を目指しましょう。
・薬物治療中の日常生活
副作用やその対処法については、前もって医師や薬剤師に確認して治療を続けましょう。気になることや不安なことがある場合は、外来診察時に担当医に相談してください。不快な症状がある場合の対処法については「各症状への対処」で具体的に紹介しているので参考にしてください。
・性生活・妊娠
性生活、妊娠・出産については、それぞれの病状によって異なるので、医師や看護師とよく相談してください。
・リハビリテーション
手術や抗がん剤治療(化学療法),放射線治療などにより、疲労感や身体能力の低下を招くことがあります。このような状態のことを「がん関連倦怠感」とよんでいますが、色々な研究からリハビリテーションが有効であることがわかってきました。リハビリテーションにより、身体能力の維持向上だけでなく、すっきりした気分になりQOLの向上も期待できます。医師や専門の医療者に相談しながらリハビリテーションをすすめていきましょう。
経過観察の頻度と期間は?
手術、薬物療法、放射線治療などの治療を終えて退院してからも、しばらくは定期的に検査を行い、経過観察を続けることになります。全身の状態や後遺症の有無を確認し、転移や再発を早期に見つけることが目的です。
がんの状況や治療の内容、体調や後遺症の程度などによって、受診と検査の間隔はそれぞれ異なりますが、なにより検査を欠かさないことが大切です。
手術のあとには、回復の具合や再発の有無を確認するための検査を受けます。経過観察の期間や検査の頻度はそれぞれ患者さんの状況により異なりますが、少なくとも5年間は定期的に検査を受ける必要があります。
内視鏡治療の経過観察は病理診断の結果により異なりますが、年に1〜2回の内視鏡検査による経過観察を基本として、CT検査などの別の画像検査をする場合もあります。
薬物療法を継続しない場合には、はじめは1週間ごと、病状が安定してきたら2〜3週間ごとに定期的に受診します。治療によりがんを取りきることが難しい進行・再発胃がんの場合、化学療法では2〜3カ月に1回、術後補助化学療法では6カ月に1回、CT検査などによって治療効果を確認し、がんの状態を観察していきます。
【参考文献】
「国立がん研究センターの胃がんの本」(小学館)
国立がん研究センター がん情報サービス 胃がん(外部サイト)
※別ウインドウで開きます