がんについて知る

乳がん

乳がんの種類と発症要因

目次

  1. 乳房のつくりについて
  2. 乳がんの発生場所と種類
    1. ほとんどが乳管で発生
  3. どんな要因で乳がんにかかるのか? 
  4. 乳がんの発症と居住地・年齢との関連
    1. 世界的な増加傾向
    2. 40歳代で発症する人が多い

乳房のつくりについて

乳房(にゅうぼう)は「乳腺(にゅうせん)」と、それを包む脂肪組織、血管、神経などからなっています。乳腺は母乳をつくるための組織で、乳頭を中心として放射線状に広がる15〜20個の「乳腺葉(にゅうせんよう)」に分かれています。

この乳腺葉はたくさんの小さな粒が集まった「腺房(せんぼう)」と、その腺房の集まりである「乳腺小葉(にゅうせんしょうよう)」というものでできていて、乳腺小葉から乳頭まで「乳管(にゅうかん)」という管が通っています。

このほか乳房には多くの「リンパ管」が通っていて、そのほとんどが脇の下にある「腋窩(えきか)リンパ節」に集まっています。このほかにも、乳房の近くには「内胸リンパ節」「鎖骨上リンパ節」があります。

 


乳がんの発生場所と種類

ほとんどが乳管で発生

乳がんは乳腺にできるがんのことで、その約9割が乳管で発生しています。これを「乳管がん」と呼びます。乳腺小葉から発生する「小葉がん」は乳がんのうちの1割程度で、病理学的検査によって区別されます。

乳がんが発生すると、早い段階のごく小さながん細胞がリンパや血液に運ばれて全身に散らばり、乳房の周りのリンパ節だけでなく、乳腺から離れた臓器である肺や肝臓、骨などに転移巣をつくることがあります。

・乳がんの種類と性質
乳がんは大きく「非浸潤がん」と「浸潤がん」の2種類に分けられます。「非浸潤がん」は乳がん細胞が乳管や乳腺小葉など乳腺組織の中にとどまっているがんで、適切に治療すれば転移や再発はほとんどありません。「浸潤がん」は発生から時間が経過したことなどにより乳腺組織の周囲に広がった乳がんで、転移・再発の危険性が前者に比べると高くなります。

このほか乳がんではがんの性質によって様々なタイプに分けられます。例えば女性ホルモンの刺激を受ける「ホルモン受容体」が多いかどうか、「ヒト表皮成長因子受容体2型(HER2)」というたんぱく質が多いかどうか、がん細胞が増殖する能力が高いかどうかなどを測定して、がんのタイプと治療法を判断します。
 

どんな要因で乳がんにかかるのか? 

乳がんの発生と増殖には、エストロゲンという女性ホルモンが大きく影響していることが分かっています。体内のエストロゲンが多いことや、長年にわたって体内のエストロゲンレベルが高い状態にあることが、乳がんの発生リスクを高めるのです。

月経期間はエストロゲンが大量に分泌されるため、月経回数が多いことが危険因子の一つになります。具体的には「初経が早い」「閉経が遅い」「出産経験がない」「初出産が高齢」といった要因です。また、妊娠・出産経験や授乳経験により乳がんの発生リスクは低くなることもわかっています。近年の乳がん患者の増加傾向には、女性の社会進出によって未出産や高齢出産の女性が増えたこと、つまり長期間エストロゲンにさらされる女性が増えたことが背景にあると考えられています。

このほか、経口避妊薬の使用、閉経後の長期のホルモン補充療法や、飲酒、肥満、運動不足、喫煙、糖尿病といった生活習慣も、乳がんの危険因子になると考えられています。

このようにホルモンの影響で発生する乳がんが多くを占めますが、中には遺伝子に関係する「遺伝性乳がん」や家族に複数の患者がいる「家族性乳がん」というタイプもあります。そのため、家系内に乳がん患者がいる場合、自身との血縁関係が近いほど、また家系内の患者数が多いほど、乳がんの発生リスクは高いといわれています。しかし、近親者に乳がん患者がいるからといって必ずしも発症するとは限らないので、遺伝学的検査を受けるべきか悩んだら主治医に相談するようにしましょう。
 

乳がんの発症と居住地・年齢との関連

世界的な増加傾向

日本国内では1年間に9万以上診断される乳がんは、女性が罹患するがんの中でもっとも患者数の多いがんで、まれに男性に発症することもあります。初期のがんを中心に年々その数は増え続けていて、この傾向は日本だけではなく世界的にも増加しています。

40歳代で発症する人が多い

多くのがんの患者数が60歳代から増加しているのに対し、乳がんは30歳くらいから患者が増え始め、40歳代後半から60歳代後半の罹患率が高くなっています。最近の特徴は閉経後の乳がん患者が増えていること。もともと日本では欧米に比べて閉経前患者の割合が多かったのですが、最近は欧米のように高齢で乳がんを発症する人が増えているというデータもあります。


【参考文献】
国立がん研究センターウェブサイト「がん情報サービス」 
※別ウインドウで開きます
「国立がん研究センターの乳がんの本」(小学館) 
「患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2019年版」(日本乳癌学会編)

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監修者
片岡明美
医師・日本がん治療認定医機構がん治療認定医 公益財団法人がん研究会有明病院乳腺センター乳腺外科医長兼トータルケアセンター患者・家族支援部サバイバーシップ支援室長

1994年、佐賀医科大学医学部(現・佐賀大学医学部)卒業。九州大学病院第二外科、国立病院機構九州がんセンター乳腺科、ブレストサージャリークリニックなどを経て2015年よりがん研究会有明病院乳腺センター勤務。2021年より現職。専門は乳がんの診断と治療全般、とくに若年性乳がん患者のサバイバーシップケア。 分担執筆に『乳がん患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療ガイドライン』(2021年版 金原出版)