乳がんで気になる妊娠や性生活(セックス)への影響は?
妊娠中に乳がんの治療はできる?
もし妊娠中に乳がんを発症していることがわかったら、そのショックは計りしれないことでしょう。
妊娠の継続や出産・授乳が乳がんの進行を早めたり、再発リスクを高めたりすることはほとんどないといわれています。乳がんの治療法には、大きく分けて4つあります。手術、放射線療法、化学療法、内分泌療法になります。
ただし、放射線治療と内分泌療法は、胎児に影響を与える可能性があるため、妊娠中は手術療法、化学療法を行う場合が多いです。特に、妊娠初期(妊娠4週~12週)は赤ちゃんのからだの器官が形成される時期であり、薬剤の影響を受けやすいと言われています。
妊娠中期以降に手術や抗がん剤治療を開始する場合は多いですが、治療医や産婦人科医と相談しながら治療のスケジュールを立てていきます。
●検査
超音波検査、針生検、マンモグラフィ ・・・妊娠中どの時期でも注意すれば実施可能
造影剤を使用しないCT検査、MRI検査・・・中期、後期は注意すれば実施可能
CT造影検査※・・・・・・・・・・・・・・全期間中、慎重な判断が必要
MRI造影検査※・・・・・・・・・・・・・全期間中、原則として勧められない
※妊娠初期(0〜13週まで) 妊娠中期(14週〜27週まで) 妊娠後期(28週以降)
※CT造影検査、MRI造影検査 造影剤と呼ばれる薬を点滴などで体内に入れてからCT検査、MRI検査を行います。通常の検査では区別がつかない病変も明確に写し出されるので正確な診断が可能になります。
●手術
中期と、後期でも妊娠31週(産科的管理の面から)までなら注意すれば実施可能
●抗がん薬治療(化学療法)
薬によっては中期〜妊娠後期の34週までは、注意すれば使用可能なものもある
●分子標的治療、ホルモン治療、放射線療法
全期間にわたって勧められない
※出典:「患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2019年版」(日本乳癌学会編)
あなたにとって最善の道が選べるよう、胎児の状態やがんの状況を考えながら、担当医と産婦人科の医師によく相談しましょう。
乳がん治療後の妊娠・出産は可能?
治療後の妊娠・出産は可能です。また妊娠や授乳によって乳がんが再発しやすくなるとも考えられていません。ただ、抗がん剤の投与で卵巣がダメージを受けることがあり、薬によっては胎児に影響するものや流産のリスクを高めるものがあるため、治療中は妊娠しないよう気をつけなければなりません。妊娠・出産を希望する患者さんは、治療前から担当医や産婦人科、体外受精などの生殖医療専門の医師と話し合っておく必要があります。
抗がん剤治療を受けると、卵巣機能が抑制されるので、治療開始から2〜3カ月のうちに多くの患者さんの月経が止まります。年齢が高かったり、化学療法に引き続いて内分泌療法を行ったりする場合は、月経が止まることが多くなることも報告されています。治療後、月経が再開すれば自然妊娠できますが、 月経が再開しない可能性を考えて、受精卵や卵子、卵巣組織を凍結保存する生殖医療の選択肢もあります。
今の段階(2020年11月時点)では、生殖治療は保険適用になっていませんので、凍結保存や保管にかかる費用は全額自己負担になります。
生殖卵巣が成功するかどうかは、卵巣の状態や年齢による個人差が大きいので、担当医師ともよく相談しましょう。
婚姻関係にあるパートナーがいる場合は受精卵の凍結保存を、いない場合は未受精卵もしくは卵巣組織の凍結保存を行います。卵巣組織の凍結保存は小児患者さんや治療までに時間のない患者さんが主に行う方法ですが、まだ「臨床試験段階の治療法」という位置づけです。どの凍結保存もがんの治療前に行うことが望ましいのですが、卵巣組織の凍結保存は治療開始後でも早期なら行うこともできます。
治療のスケジュールによって採卵にかけられる時間が限られていますので、まずはがん治療の担当医に相談し、生殖医療専門医を紹介してもらいましょう。
治療後の性生活(セックス)への影響は?
性生活が乳がんの進行に悪影響を与えたりすることはありませんし、性生活によって女性ホルモンの分泌が増えて再発リスクを高めることもありません。ただし妊娠を避けるように担当医から指示されている場合は、月経が止まっていても避妊が必要です。また経口避妊薬(ピル)は、乳がんを悪化させる可能性があるため服用することはできません。
手術後は手術した部位や腕、肩周辺がスムーズに動かせないことや、皮膚の感覚が変化して不快感を覚えることがあるので、辛い場合は無理をせず、パートナーに伝えましょう。手術した乳房を圧迫しないようにすることも必要です。
抗がん剤治療で白血球や血小板などが減る時期は、感染しやすく出血も起こりやすいので、その間は性生活を控えましょう。
抗がん剤やホルモン療法中には、膣内の乾燥や粘膜の萎縮が起こるために性交痛を伴うこともあります。そのような場合は、潤滑(じゅんかつ)ゼリーなども有効です。
【参考文献】
「国立がん研究センターの乳がんの本」(小学館)
「患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2019年版」(日本乳癌学会編)
国立がん研究センターウェブサイト「がん情報サービス」 (外部サイト)
日本がん・生殖医療学会(外部サイト)
※別ウインドウで開きます
- 監修者
- 矢野 和美
- 看護師:がん看護専門看護師 国際医療福祉大学大学院がん看護学領域 教員 認定NPO法人 マギーズ東京 キャンサーサポートスペシャリスト
福岡県出身。看護師経験20年以上。 2008年修士課程にてがん看護学を学んだ後、がん看護専門看護師の認定を受ける。 その後博士課程にて政策学を学ぶ。専門分野はがん薬物療法、緩和ケア、就労支援など。