更年期障害のような症状が出る?妊娠への影響は?子宮頸がんで気になること
むくみやリンパ浮腫に注意
手術の技術は年々向上しており、合併症の予防も進んだため、手術後の合併症はかなり減ってはきています。とはいえ、注意が必要なことに変わりはありません。気になることがあれば主治医に相談するようにしましょう。
リンパ節を切除するリンパ郭清を行うと、皮膚の下にリンパ液が溜まって足や下腹部がむくむことがあります。これを「リンパ浮腫(ふしゅ)」といいます。手術後、一時的に出る症状は10日程度で解消されますが、時間がたってから発症する場合は改善が難しい慢性的な症状になりがちです。足のだるさ、むくんだところが重くなる、関節の曲げ伸ばしのしにくさなど、生活に影響が出ることがあります。
また、浮腫んでいる場合は、皮膚が傷つきやすく脆弱になっているため、保湿や日焼けには注意しましょう。
リンパ浮腫の確実な予防法はありませんが、早めに適切な治療を受けることで、進行をおさえたり、症状を軽減したりすることができます。リンパ浮腫外来を設置している病院もあるので、相談してみるといいでしょう。
排尿トラブルや便秘が起こることも
基靭帯(きじんたい・子宮頸部の周囲にある、子宮を支える組織の1つ)には排尿に関する神経が走っているので、手術で切除することで排尿障害が起こりやすくなります。尿がたまった感覚(尿意)がわかりにくい、残尿感がある、尿もれなどが症状としてあげられます。
多くは手術後数週間から数か月で徐々に改善していきますが、手術前と同様に戻ることは難しいことも多いため、日常生活での工夫、注意が必要です。一定の間隔でトイレに行って排尿の習慣をつける、おしりをきゅっと締めて尿道や肛門の筋肉の感覚を取り戻すようにする、強くおなかを押して無理やり出すことをしない、などを心がけましょう。
便秘は広汎子宮全摘術をした場合に起こりますが、排尿トラブルより頻度は少ないです。比較的短期間で回復しますが、症状があるときは、食事の調整や下剤の服用で対応します。
手術後の腸閉塞の原因と予防
手術後の腸の炎症により、本来はくっついていない腸管の壁がくっついてしまう部分的な癒着(ゆちゃく)により、腸管の通りが悪くなる腸閉塞(ちょうへいそく)が起こることがあります。腸管が狭くなることで便やガスが出なくなり、おなかの痛みや吐き気、嘔吐(おうと)などの症状が出ます。多くの場合、点滴、チューブによって胃液や腸液を排出することで回復します。
しかし腸が狭くなった状態は変わらないので、消化の良いものをよく噛んで食べる、1回の食事量を減らして回数を増やす、食物繊維の多いものは避けるなど、日常生活で注意することが重要です。また、状態によっては手術が必要になる場合もあります。
上記の注意事項は予防にも役立ちますので、手術後は食生活を見直すことをお勧めします。
更年期障害と同様の症状が起こる?
転移や再発の可能性を考慮し、閉経前の年齢の患者さんががんの発生した子宮だけでなく、卵巣や卵管も切除した場合、女性ホルモンが減少するため、更年期障害と同様の症状が起こりやすくなります。これを「卵巣欠落症状(らんそうけつらくしょうじょう)」と言います。
症状は、ほてり、発汗、食欲低下、だるさ、イライラ、頭痛、肩こり、動悸(どうき)、不眠、腟からの分泌液の減少、骨粗しょう症、高脂血症(こうしけっしょう)などがあげられます。症状や発症する期間には個人差がありますが、特に年齢が若いと症状が強くなる傾向があります。
これらに対しては、それぞれ適切な治療法があるので、つらいときは医師と相談をしましょう。また日常的に血行をよくすること、精神的にリラックスした生活を心がけることも大切です。
気になる妊娠への影響
妊孕性(にんようせい)とは、妊娠するための力のことです。妊娠、出産には、卵子を作り出す卵巣、卵子と精子が受精する卵管、胎児を育てる子宮が必要不可欠なのですが、転移や再発の可能性を考慮し、子宮と共に卵巣や卵管も切除してしまうと、妊娠の可能性がなくなってしまいます。
とはいえ、患者さんにとって妊娠・出産が可能かどうかは大切な問題です。妊娠を強く希望している患者さんが、がんが小さい、浸潤が深くない、他部位への転移がないなどの細かい基準を満たしていれば、卵巣や卵管を温存する「広汎子宮頸部切除術」を選択することも可能(進行期ではⅠB期までが対象)です。
術後に妊娠した場合も、早産や流産、帝王切開の可能性が高くなるため、術後からきめ細かな経過観察、管理が必要となります。
また、卵巣は放射線に非常に弱いため、放射線療法でも妊孕性を考慮しながら治療が進められます。
少しでも妊娠・出産を希望する場合は、治療前から担当医や産婦人科、体外受精などの生殖医療専門の医師と話し合っておくことをお勧めします。
性生活はどうなる?
子宮頸がんの手術や放射線治療によって、子宮を切除する、膣の長さが短くなる、膣が硬くなったり乾燥しやすくなったりすることで、以前のような性交渉が持ちにくくなったり、性の満足度が低下したりすることがあります。また治療によって喪失感や、性交渉に対して負のイメージを持つことも多いでしょう。
しかし、精神的ケアによる不安感の改善やパートナーの理解などが、性交障害の改善に大きく役立つとされています。治療をした病院やその他の専門機関で相談したり、パートナー(配偶者・恋人)や家族と一緒に、解決方法を話し合ったりするのもよいでしょう。パートナーとのコミュニケーションはとても重要になります。相談しながら新しい性生活の形を見つけていくことも大切です。
【参考資料】
患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン第2版(2016年)(日本婦人科腫瘍学会編)(金原出版)
担当医としてこのように答えたい がん患者・家族からの質問(へるす出版)
国立がん研究センターウェブサイト「がん情報サービス」(外部サイト)
日本婦人科腫瘍学会ウェブサイト「市民の皆さまへ」(外部サイト)
日本産科婦人科学会ウェブサイト「一般の皆様へ」(外部サイト)
- 監修者
- 矢野 和美
- 看護師:がん看護専門看護師 国際医療福祉大学大学院がん看護学領域 教員 認定NPO法人 マギーズ東京 キャンサーサポートスペシャリスト
福岡県出身。看護師経験20年以上。 2008年修士課程にてがん看護学を学んだ後、がん看護専門看護師の認定を受ける。 その後博士課程にて政策学を学ぶ。専門分野はがん薬物療法、緩和ケア、就労支援など。