「標準治療」とは、どんな治療なのか
がんの治療にあたって、医療関係者がしばしば使う言葉に「標準治療」という言葉があります。
「標準治療は手術ということになります」
「化学療法ではシスプラチンを使うのが標準治療です」
などと、医療スタッフに言われると「?」と疑問に感じることもあるかもしれません。
「標準治療」とは、“並みの治療”という意味ではなく、「世界中で行われた研究結果をもとに認定されたもっとも効果があると認められた最善・最良の治療法」です。また、標準治療とされるものは、すべて、保険適用になっています。言い換えると、保険適用になっていない治療は、「標準治療」ではありません。すなわち“最善・最良の治療”ではないということです。
そう聞いても、「いやいや、どこでもやっているような治療ではなく、この間テレビで観た最先端の治療を受けたい」「お金はいくら出してもいいから、最新の治療法を試してみたい」…そういうふうに思う人もいるかもしれません。 しかし、それはもしかするととても危ない治療法かもしれないのです。標準治療と認められていない治療法は、まだまだ研究中であったり、研究すら行われていないものだったり、どんな副作用が起こるかもわかっていないものなのです。
「保険が適用される標準治療が最高の治療法である」という最大の理由は、その治療に効果があるかどうかが徹底的に調べ抜かれているからです。世界中にいる数万人のがん研究者たちが連日連夜必死に研究した新薬や治療法が、人に対して効果があるのかを厳密に評価するさまざまな臨床試験(図1参照)でその後数年にわたって試される中で、本当に安全で効果があると確認され、最後まで残るものはわずか0.01%しかありません。
こうした試験を通り抜け、世界的に評価されて選ばれたのが「標準治療」であり、いわば治療の「スーパーエリート」なのです。図1のプロセス1~4までをクリアしてこそ、真に効果ありと判定され、新しい「標準治療」となり、保険適用になります。
いわゆる「最先端の治療法」とどう違う?
基礎研究や臨床試験中の治療法は「科学的根拠(エビデンス)」を得るための、いわば確認中の治療法です。がんは個人差が大きい病気のため、1人2人に偶然うまくいったとしても、他の人にも効果があるかどうか、再現性の確認が必要です。また、他の治療や標準治療と大勢の患者のデータを厳密に比較しないと、その治療の真の効果はわからないのです。たとえテレビやインターネットで「最先端の治療」と言われていても、医療においてはもっとも効果的で優れているとは言い切れないのです。
もし、“最先端の○○治療”などと聞いた際に、図1の研究のプロセスのどの段階にあるのか確認してみるとよいと思います。マウス実験が終わったばかりの治療は、プロセス1の段階であり、まだまだ標準治療となる道のりは遠く、初期的な研究段階のものと言えます。臨床試験フェーズ3であると、最終的な段階なので、標準治療になる一歩手前の状況で有望かもしれない、ということがわかると思います。
「最先端の治療」や「最新治療」といった言葉は患者さんや家族にとって魅力的に見えるかもしれませんが、世界的に認められたエビデンスのはっきりした治療は、やっぱり「標準治療」なのです。
しかも、標準治療は旧態依然とした治療法というわけではなく、その内容は日々進化しています。同じ薬でも投与方法や組み合わせ方、投与の順番がより効果的なものに変わることはしばしばあり、手術方法もより安全で効率的なものに進化しています。また、同じ抗がん剤でも副作用を抑える方法が新しく開発されるなど、より患者さんに負担の少ない、安全な方法が日々考案されています。
標準治療は、世界中の研究者・医師・看護師・医療スタッフの知恵と工夫を結集した、安全で、かつもっとも効果がある治療法だといえます。
【参考文献】
「世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療」(ダイヤモンド社)
国立がん研究センターがん情報サービス「治療法を考える」(外部サイト)
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