胃がんの転移ルート
がんの細胞が血液やリンパ液の流れに乗って、異なる臓器に移動して成長することを「転移」といいます。この理屈上、転移は全身で起こり得ると言えますが、胃がんの転移のしかた、いわば“転移ルート”には主に以下の3通りがあり、それぞれ転移しやすい場所が異なります。
血行性転移
がん細胞が血液に乗って別の臓器へ移り増殖します。このルートで胃がんが転移しやすい場所は肝臓や肺です。胃を通った血液が最初に流れ込むのが肝臓なので、転移の頻度が高くなると考えられています。
リンパ行性転移
がんがリンパ管に入って流れていき、リンパ節で増殖します。胃がんが転移しやすい場所は、胃の周りのリンパ節です。
腹膜播種(ふくまくはしゅ)
がんが進行して胃の一番外側の漿膜(しょうまく)を破り、おなかの中にがん細胞が散らばって広がります。「腹膜転移」「がん性腹膜炎」とも呼ばれ、進行した胃がんの転移ではもっとも多くみられるものです。
これら3通りのほか、がん細胞の増殖が胃の周りにある膵臓、結腸などにまで広がる場合もあり、女性の場合は卵巣への転移も見られます。
胃がんから転移すると症状でわかる?
同じ臓器で発見されたとしても、そこで発生したがんと、他の臓器から転移したがんではがん細胞の性質が違います。胃がんが転移した場合の特徴を以下で紹介します。
なお、以下の文中に記載のあるそれぞれの検査については、胃がんの様々な検査と目的で詳しく説明しています。
リンパ節転移
あまり自覚症状がないため、CT検査などで診断されます。感染症などが原因で起こるリンパ節の腫れとは違って、痛みや発熱はありません。ただし、転移した場所でがんが大きくなって組織を圧迫すると痛みが出ることもあり、からだの表面のリンパ節に転移した場合はしこりが現れることもあります。
肝転移
肝臓に転移しても症状は表れにくく、血液検査や超音波(エコー)検査、CT検査やMRI検査などで診断されます。転移する場所によっては、胆管が圧迫されて詰まることにより黄疸(おうだん)(※1)が現れることもあります。また、多発といって、肝臓にたくさんの転移が認められることも珍しくありません。
※1 黄疸:黄色い胆汁が体内にたまることで、皮膚や白眼が黄色く見える状態のこと
腹膜転移
胃、腸、肝臓、胆嚢、膵臓などの臓器の表面や、お腹の内側を覆っている薄い膜が腹膜です。腹膜転移の初期はこの腹膜の表面にがん細胞が散らばった状態ですが、増殖が進むと近くの臓器に影響を及ぼします。
腹膜への転移はとても診断が難しく、判断が遅れることもあります。おもに超音波(エコー)検査やCT検査などで診断されます。転移がんの増殖が進むと、腸閉塞(ちょうへいそく)(※2)を起こしたり、腹水(ふくすい)(※3)がたまってお腹が膨らむことによる腹痛や呼吸困難を起こしたりすることがあります。
※2 腸閉塞:腸管の流れが阻害されて内容物がたまり、便やガスが出なくなってしまう状態のこと
※3 腹水:血管やリンパ管から液体成分が漏れ出して、お腹の中にたまったもの
肺転移
呼吸障害も痛みもあまりないことが多く、胸部X線検査やCT検査で診断されます。胸膜までがんが広がると痛むことがあり、転移の場所によっては気管支が刺激されて咳が出ることもあります。
骨転移
骨がもろくなり痛みが起こります。進行すると圧迫骨折のリスクもあります。CT検査や骨シンチグラフィ検査などで診断されます。
脳転移
転移の場所によってはがんが小さくても歩きにくくなる、目が見えにくくなるなどの症状が表れます。がんが大きくなると吐き気や頭痛なども起こります。CT検査や症状などを総合的に見て診断されます。
胃がんの再発とは?
手術(内視鏡手術・開腹手術)のときに目で見える範囲の胃がんをすべて取り除いて、術後に化学療法を行った後に、治療を行った部分、離れた別の臓器、リンパ節に再び胃がんができることを再発といいます。これは、手術で取りきれなかったごく小さながんが大きくなったり、薬物療法などで縮小したがんが再び大きくなったりすることで起こります。
再発した場合、一般的には手術後5年以内、多くは3年以内に見つかりますが、5年以上経ってから見つかることがないわけではありません。再発したかどうかを調べるには定期検査を欠かさないことが大切です。血液検査、腫瘍マーカー検査、胸部X線撮影、腹部CT検査、内視鏡検査などによる検査では再発したかどうかを調べるとともに、胃を切りとった後の後遺症があるかどうかも確認します。
胃がんが転移・再発した場合の治療
転移・再発したがんは手術ができないことが多いため、症状を軽減するための処置や、がんの増殖を抑えるための薬物療法を行うのが一般的です。転移や再発があった場所や、全身の状態を検査し、最初に行った治療法とその効果などを調べたうえで決められます。
治療による副作用や後遺症ができるだけ少ない方法を選ぶ、症状に応じて治療の優先度を考える、辛いときには症状を和らげるためにできることをするなど、からだと心の両面にやさしい治療やケアができるよう、主治医と相談して納得のいく選択をしましょう。
がんの再発や転移を完全に防ぐことはできませんが、がんの種類や性質、治療の経過などから、ある程度予測して対策をとることはできます。治療後の検査を欠かさず、再発や転移を早めに診断して治療することが重要です。
がんの転移、あるいは再発を知らされると、最初にがんと告知されたとき以上に大きなショックを感じる人も少なくありません。ためらわず、周囲に心身のサポートを求めることをおすすめします。
【参考文献】
国立がん研究センターウェブサイト 胃がん
https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/index.html
「国立がん研究センターの胃がんの本」(小学館クリエイティブ)