胃がん治療後に気になる体重減少や食生活と胃ろうについて
体重が戻らないのが心配
胃がんの手術後、ほとんどの人は体重が数kg程度減少し、2年間ぐらいはあまり増えません。これは胃の切除によって胃酸や消化液の分泌が減るため、消化する能力が落ちてしまうからです。
誰にでも起こることですから、体重がなかなか元に戻らないからといって気に病まなくても大丈夫です。胃で消化できない分、腸がそれを補う働きをしてくれるので、食事さえ順調に進んでいれば問題ありません。体重の増減に一喜一憂するよりも、食事量の管理に気をつけて過ごしましょう。
少ししか食べられない時の工夫
胃を切除したら、一度に食べられる量が少なくなるのは当たり前のことです。ですから、少ない量でも栄養価の高い食品を選んで食べると効率がいいと言えます。手術後しばらくの間は、揚げ物を食べると下痢をしたり腹痛を起こしたりすることもあるので気をつけなければなりませんが、慣れれば食べやすくなるでしょう。調味料にマヨネーズや油を含むドレッシングを取り入れる工夫もしてみてください。
筋肉を作るために欠かせないタンパク質を含む肉や魚も積極的に摂りたいのですが、殺菌力のある胃酸の分泌が落ちているため、刺身など生食は避けてください。このほかチーズや牛乳などの乳製品や卵、ご飯・パン・イモ類など炭水化物を効率よく摂れる食品も欠かさずに。ダンピング症候群(胃がん治療後の療養生活と経過観察)を防ぐため、よく噛んで、ゆっくり食べるよう心がけましょう。
アルコールも辛いものもダメ?
もともとお酒が好きだった人は、体調が回復してきたらお酒が飲みたくなってしまうかもしれません。どうしても飲みたい時は、少量のアルコールなら飲んでも問題はありません。
ただし、胃を切除してしまうと、アルコールが小腸に入ってすぐ吸収されるため、急激に血中アルコール濃度が高くなるので注意が必要です。また、胃の手術後はげっぷをうまく出せなくなることが多いので、ビールなどの炭酸を含むアルコール飲料は避けた方が無難です。いずれにしても、お酒を飲む場合は担当医によく相談してからにしましょう。
また、辛いものが好きな人も、あまり我慢をしなくて大丈夫です。わさび、からし、唐辛子などの香辛料、コーヒーなどの嗜好品は、普通に摂取する分には問題ありません。
外出先でおならがよく出て困る
胃の手術後、おならがよく出るようになる人は多いようです。通常、口から入った空気はげっぷとして吐き出されるのですが、手術によって胃と腸を仕切る幽門の部分を取ってしまうと、口から入った空気がそのまま腸に流れ込んでしまいます。
また、腸内細菌のバランスが変化して、発酵によるガスの発生が増えることも原因になります。おならが出るのを少しでも抑えるためには、食事の時に大きな口を開けないようにすることや、ウォーキングなどの適度な運動が効果的。運動することで腸の働きが活発になり、異常発酵を減らすことができるからです。あまり気になるようなら、医師に相談して整腸剤などを処方してもらいましょう。
「胃ろう」はどんな場合に必要か
最近「胃ろう」という言葉をよく見たり聞いたりすることがあるでしょう。これは口から食事をとれない、あるいは栄養の摂取が不十分になった患者さんに対し、消化管内にチューブを差し込んで栄養剤を注入する経管栄養法のひとつです。管を挿入する経路によって、他に経鼻胃管、腸ろうという方法もあります。
経管栄養法は、点滴などで静脈から栄養をとるよりも、消化管を使うことで自然な状態に近い栄養の摂取方法です。なによりも安全性が高くコストが安いというメリットがあります。
胃ろう栄養法、腸ろう栄養法では、手術によって腹壁と胃壁(腸壁)との間にカテーテルを通し、直接胃や腸に栄養剤を注入します。
1日の必要量、経管栄養剤の種類は患者さんによって異なります。管を通すために開けた孔の周囲に栄養剤や消化液が貯留しやすく、皮膚の損傷のおそれがあるため、こまめな観察と適切なスキンケアが必要です。
【参考文献】
「国立がん研究センターの胃がんの本」(小学館)
国立がん研究センター がん情報サービス 胃がん(外部サイト)
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- 監修者
- 矢野 和美
- 看護師:がん看護専門看護師 国際医療福祉大学大学院がん看護学領域 教員 認定NPO法人 マギーズ東京 キャンサーサポートスペシャリスト
福岡県出身。看護師経験20年以上。 2008年修士課程にてがん看護学を学んだ後、がん看護専門看護師の認定を受ける。 その後博士課程にて政策学を学ぶ。専門分野はがん薬物療法、緩和ケア、就労支援など。