乳がんの診断がつくまでの検査
視診・触診
視診は文字通り医師が目で見て診断するもので、えくぼのようなくぼみやひきつれ、ふくらみがないか、皮膚の赤みやただれがないか、乳房の左右の形に違いがないか、乳首から分泌物がないかなどを確認します。
指で乳房を触る触診では、しこりがないか、もしある場合は大きさや硬さ、動き方などを確認します。また首や脇の下のリンパ節にも腫れがないか調べます。
マンモグラフィ
マンモグラフィは乳房専用のX線検査です。透明な2枚の板で乳房を挟んで圧迫し、乳房が重ならないよう薄く伸ばして撮影します。この検査では、視診や触診ではわかりにくい小さなしこりや、超音波(エコー)検査だと見つけにくい、わずかな石灰化(乳房の一部に微細なカルシウムが沈着したもので、乳がんでみられる場合があります)で早期の乳がんを発見する ことができます。
しこりや乳腺の歪みは白く写ることがほとんどですが、乳房内に脂肪成分が少ない高濃度乳房の人や若くて乳腺が硬く発達している人の場合、白く見える部分が多くなるため、マンモグラフィでは病変が見つかりにくいことがあります。また乳腺症などの良性腫瘍も同じように白く写るので、画像だけでは良性か悪性かの判断ができません。
超音波(エコー)
超音波を発生させるプローブという機械を乳房の表面にあて、超音波が反響する様子をモニターで見ながら小さなしこりがないか、見ることで、病変がないか、小さなしこりがないか、しこりの性状や大きさはどうか、周囲のリンパ節への転移がないかなどを調べます。超音波なので妊娠中の検査も可能です。超音波検査では乳がんは黒っぽく、乳腺が白っぽく写るので、マンモグラフィだと病変が見つけにくい高濃度乳房の方の検査にも役立ちます。
乳がんかそうでないかを判断するためにMRI検査を行う場合もあります。
乳がんの確定診断のための検査
病理検査とは、臓器や組織、細胞を採取し、顕微鏡で詳しく調べて診断する検査のことです。生検とは生体組織検査のことで、細胞を取って検査するのが細胞診、さまざまな細胞の集まりである組織を取って検査するのが組織診です。
細胞診
主に行われるのは下で説明する「穿刺(せんし)吸引細胞診」ですが、乳頭から出る分泌物の細胞を調べる細胞診もあります。
<穿刺(せんし)吸引細胞診>
超音波や手などで病変部の位置を確認しながら、細い注射針を刺して病変部の細胞を吸引してスライドグラスに吹き付けて、顕微鏡で調べます。局所麻酔の必要がないので、体への負担が少なくすみます。
組織診
マンモグラフィや超音波で場所の確認をしながら病変の一部を採取します。太めの専用針を使うため、局所麻酔を行います。組織診には、針を使う「針生検」のほか、手術で組織を取って調べる「外科的生検」があります。
<針生検>
ばねの力を利用し、通常は一つの組織だけを切り取って採取する「コア針生検」と、吸引力を利用して一度に複数の組織を採取する「吸引式乳房組織生検(マンモトーム生検)」があります。細胞診とは異なり太めの針を使うので小さな針跡ができますが、細胞をたくさん採取するので、がんの性質がわかりやすくなります。
広がりを判定する画像検査
検査を経て乳がんと確定されたら、治療方針を決定するための検査を行います。乳がんの広がりや、小さながんが別の場所にないか(転移をしていないか)を正確に調べるために、マンモグラフィや超音波検査に加えて、MRI検査やCT検査が実施されることも多くなっています。
画像検査
<MRI検査>
台にうつ伏せに寝たまま大きな筒状の装置に入り、磁気を利用して体内の断面図を撮影します。乳がんの広がり具合や反対側の乳房内に病変がないかを調べることができます。検査中は大きな音がしますが、痛みはありません。CTやレントゲンでは見分けのつきにくい骨や筋肉の断面なども撮影でき、放射線被曝がないというメリットがあります。一方、造影剤を用いるため気管支喘息などアレルギー体質の患者さんや、磁力に反応する心臓ペースメーカー装着や体内に金属が入っている患者さんには用いることができません。
<CT検査>
巨大なドーナツのような装置の中を台に寝たまま通過し、体の断面画像をX線で撮影します。造影剤を使用することで、反対側の乳房の病変の有無やリンパ節への転移・遠隔転移(骨や肺、肝臓など別の臓器に転移すること)の有無を調べることができます。MRIに比べ検査時間が短く、心臓ペースメーカーや体内に金属があっても撮影できますが、造影剤アレルギーのある患者さんには用いることはできません。
<骨シンチグラフィ>
骨に転移がないか調べる検査です。転移のある骨に集まるラジオアイソトープ(放射性同位元素)を用いた薬剤を注射し、薬剤から出てくる放射線を専用のカメラで撮影して調べます。台に寝たままの状態で、大きな装置を用いて撮影します。
<PET検査>
がん細胞がブドウ糖を多量に摂取するという特性を利用した検査です。ブドウ糖に放射性フッ素を加えた薬剤を注射し、がん細胞に取り込まれたブドウ糖の分布を撮影することで、腫瘍の活動状態や、他の臓器への転移の有無を確認します。
※遠隔転移を調べる骨シンチグラフィとPET検査は、ステージ0からIと考えられる乳がん患者さんの場合、肺転移や骨転移が見つかる確率はかなり低いため、手術前の検査としては必ずしも推奨されていません。
※乳房周囲のリンパ節である腋窩(えきか)リンパ節への転移の有無や程度は、画像検査や触診ではっきりしないことがあります。その場合、手術の途中でセンチネルリンパ節(リンパ管に入ったがん細胞が最初にたどり着く腋窩リンパ節のこと)の一部を採取し、生検を行います。
治療効果の参考にする検査
腫瘍マーカー検査
がんの種類によっては、がん細胞がつくったり、がん細胞に反応して正常細胞がつくったりする物質が血液や体液中に現れてくることがあります。これを腫瘍マーカーといいます。腫瘍マーカーにはさまざまな種類があり、乳がんではCA 15-3, CEA, NCC-ST-439などが知られています。
この腫瘍マーカーは、採取した血液を検査して調べます。ただ、がんがあっても腫瘍マーカーの値が上昇しなかったり、がんがなくても上昇したりすることもあるため、現段階では腫瘍マーカーのみでがんと確実に診断することはできません。あくまでも画像診断の補助という位置づけで、多くは再発や転移した場合に、治療の効果を見る参考指標として使われます。
【参考文献】
国立がん研究センターウェブサイト「がん情報サービス」
https://ganjoho.jp/public/index.html
「国立がん研究センターの乳がんの本」(小学館)
「患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2019年版」(日本乳癌学会編)