がんになって感じるさまざまな不安の解消方法
不安や落ち込みは自然な反応
がんだとわかって、心が不安や恐れでいっぱいになってしまう人は多く、それで生活に支障が出るケースも珍しくありません。不安や不満からイライラしがちになって、つい周りにあたってしまうという人も多いと思います。がんにかかった時の不安や落ち込みは、とくに心が弱いから生じるというものではなく、自然な心の反応として多くの人にあらわれるものです。
心のケアの必要性
心の状態とからだの状態は互いに影響しあっているものです。不安や落ち込みといったつらい状態が長く続くと、からだにも大きな負担がかかります。これまで多くのがん患者さんの声が反映され、現在ではがんの診断後早期から心のケアの必要性が強調されるようになってきています。病気の治療が大切なのはもちろんのことですが、心のケアも、日常生活の改善や痛みの軽減につながると考えられているのです。
自分の気持ちについて振り返る
心をケアするための一歩は、自分の気持ちについて振り返ってみることです。今、どのような心の状態にあるのかを知ることが、適切な対処へつながります。以下の「つらさと支障の寒暖計」は心のケアの専門家に相談するべきかどうかを判断するための自己診断法です。今の心の状態を簡単にチェックするのに役立ちます。
左側の「つらさ」の寒暖計が4点以上、かつ右側の「支障」の寒暖計が3点以上の場合は、ケアが必要な可能性があるので、担当医や看護師に相談しましょう。
■つらさと支障の寒暖計
(国立がん研究センター精神腫瘍学グループ「つらさと支障の寒暖計」を元に作成)
落ち込みのチェックリスト
次に、以下のリストをチェックしてみましょう。落ち込みの程度を測るものです。
1. 一日の大半を憂鬱(ゆううつ)に感じたり、落ち込んでいることが、2週間以上続いていませんか?
2. ほとんどのことに興味をなくしたり、いつも楽しんでいたことが楽しくないと感じることが、2週間以上続いていませんか?
3. 体重が5%以上減ったり、あるいは、食欲がない状態が毎日のように続いていませんか?
4. 眠れない日が毎日のように続いていませんか?もしくは寝すぎていませんか?
5. ほかの人に指摘されるくらい、そわそわして落ち着きがなくなることや、逆に、普段に比べて話し方や動作が遅くなってしまうことが、毎日のように続いていませんか?
6. 気力がなくなるなど、疲れた状態が毎日のように続いていませんか?
7. 自分自身のことを価値がないと感じてしまったり、過去にしたことやしておかなかったことについて、毎日のように自分を責めていませんか?
8. 考えることや集中することができなくなったり、普段できていた日常の事柄を決められないことが、毎日のように続いていませんか?
9. 物事がうまくいかないので、自分を傷つけたり、死ぬことを考えたり、死んでしまったほうがましだと思っていませんか?
(米国精神医学会のDSM-V診断基準に準拠)
まずは、1と2の質問について答えてみてください。
・1と2、ともに「ない」という人
今のところ重い落ち込みではないようですが、これからも1カ月に1度くらい、上記の項目をチェックすることをお勧めします。
・1、2の両方、あるいはどちらか1つが「ある」という人
3~9の質問に答えて、「はい」と答えた数を数えてください。1、2の数も合わせた合計が5つ以上で、かつ2週間以上続いている場合は適応障害や気分障害の可能性があり、専門家による心のケアが必要と考えられます。まずは担当医や看護師に相談しましょう。
心の苦痛には有効な治療法があります。心のケアの専門家は、患者さん一人ひとりに合わせたカウンセリングや、副作用の少ない薬物療法といった治療法に通じており、みなさんの助けになるはずです。心のケアに関して担当医や看護師に相談しにくかったり、周囲の人に相談できない場合は、患者会やがん相談支援センターに相談するという方法もあります。
経済的・社会的な不安について
がんの治療・療養は長期にわたることが多く、経済的な不安におそわれることもあるかもしれません。日本の医療制度は、個人の医療費の負担について幾重にも支援する施策が整っています。がん相談支援センターなどで早めに情報を集めて不安を解消しておくといいでしょう。
費用の概要については「出費は治療費だけじゃない。がんの治療にかかる費用はどれくらい?」で紹介しています。
治療しながら働く場合は、体調や通院の都合を考慮してもらうため、がんの治療が決まった時点で、主治医から今後のスケジュールや体力回復の見通しなどについて詳しい情報をもらい、それを会社と共有して、今後の仕事と治療の見通しについてしっかり話合いをする機会をもちましょう。
休職など、仕事と治療の両立については「がん治療のための上手な休みの取り方は? 知っておきたい会社の制度」で紹介しています。
そのほかにも、退院後の生活や、外見の変化など、不安や苦痛を覚えることがあると思います。そうした場合も、まず担当医や看護師、病院の相談室に相談しましょう。
がん相談支援センターについては「がん相談支援センター(国立がん研究センター)(外部サイト)」をご覧ください。
【参考文献】
「国立がん研究センターのこころと苦痛の本」(小学館)
国立がん研究センターウェブサイト「がん情報サービス」(外部サイト)
※別ウインドウで開きます
- 監修者
- 矢野 和美
- 看護師:がん看護専門看護師 国際医療福祉大学大学院がん看護学領域 教員 認定NPO法人 マギーズ東京 キャンサーサポートスペシャリスト
福岡県出身。看護師経験20年以上。 2008年修士課程にてがん看護学を学んだ後、がん看護専門看護師の認定を受ける。 その後博士課程にて政策学を学ぶ。専門分野はがん薬物療法、緩和ケア、就労支援など。