がんについて知る

がん診断後の過ごし方

がんの治療と仕事を両立するためにはどうすればいい?働く人が確認しておきたいこと

目次

  1. すぐに結論はださず、まずは落ち着きましょう
  2. 病状や治療、仕事や生活について確認
  3. あなたの働き方について改めて確認
  4. 会社(上司や同僚、仕事仲間)にはどう伝えたらいい?
  5. あなたの治療と仕事の両立スケジュールを立てましょう


すぐに結論はださず、まずは落ち着きましょう

がんと診断された時、誰もが大きなショックを受け、不安に駆られるのではないでしょうか。仕事を持つ人なら、治療のことはもちろんですが、仕事への影響も気になるでしょう。仕事は続けられるのか、休職した方が良いのか、あるいは退職しなければならないのか。休職や退職によって収入が減ったら、生活はどうなるのか……。心配はつきません。

しかし、「どうしよう……」と思い詰めすぎずに、少し一呼吸入れてみてください。診断の直後は、がんの治療や生活に関する情報も少ない中で、さまざまな選択を迫られることが多く、不安や焦りから気持ちが揺れ動いたりすることもあると思いますが、心が混乱している時に重要な決断をすることは避けた方が良さそうです。

「職場に迷惑をかける」「仕事を続けられない」とひとりで思い込まないで、少しずつ物事を整理することから始めてみませんか。ここから先は、そのための「段取り」について紹介しますので、参考にしてみてください。

病状や治療、仕事や生活について確認

まずは、自分の状況を見て、治療と仕事に関する情報を一つずつ整理することから始めてみましょう。最初に自分のがんの種類やステージ、治療法、治療期間などについて、主治医に確認し、“おおよその治療スケジュール”を聞いておくと今後の見通しを立てる助けになると思います。

また、治療中や治療後の副作用、後遺症、リハビリの内容、復職にあたって考慮すべきことなどについても現段階でわかる範囲で構いませんので、主治医に確認してみてください。これらの治療に関する情報は、仕事を継続したり、仕事を再開したりしていく上で患者さん本人にとっても、また家族にとっても重要な情報になります。
主治医から治療計画について説明してもらい、もしもわからないことがあれば、遠慮なく質問していいと思います。

おおよその治療スケジュールが把握できたら、会社員の場合は、自分の有給休暇がどれくらいあるのか、時間単位での休暇は取得できるのか、取得できるのなら何日分取得できるのかなど、勤務先の就業規則についても確認を忘れずに。就業規則は常時10人以上の従業員を使用する会社ならば作成してあります。場所などがわからなかったら、人事担当者や上司などに確認してみましょう。
公的健康保険に加入していれば医療費の自己負担額は3割なのはご存知だと思いますが、後述の「高額療養費制度」「傷病手当金制度(国民健康保険は対象外)」など、他にも助けになる制度があることも知っておきましょう。

また、治療中の収入や生活費も気になるところです。貯蓄の残高、加入している医療保険やがん保険の保険金などの契約内容も確認しておきましょう。子どもがいるなら養育費や学費のこと、要介護者がいるなら介護費用のこともあります。お金だけでなく、代わりに世話をしてくれる人を頼む必要があるかもしれません。こうしたことを考慮して、これからの生活費をどうするか、できれば家族と一緒に考えましょう。

あなたの働き方について改めて確認

さて、ここまでの状況を整理したところで、もう一度、あなたの仕事に対する思いや希望を確認してみてください。あなたはどのような働き方をしたいでしょうか?仕事を通じて、どんな喜びを感じていたでしょうか?診断された直後の思いと、治療を経て、仕事への価値観が変化することもあります。
仕事に対する価値観の違いによって、この先どうするかの選択肢は変わってくるでしょう。一旦ペースダウンして、治療が終了した後に再スタートすることもよい方法かもしれません。治療に専念するのではなく、治療を優先していくという考え方でいると少し気持ちが楽になるかもしれません。

パートなど雇用契約上、いったん仕事を離れなくてはならない場合も、あなたがその職場で治療後も働きたいと思うのならば、いったんお休みをする前に、担当の人へあなたの気持ちを伝えておくとよいでしょう。(派遣やアルバイト・パートなどの非正規雇用のがん患者さんの仕事とお金について)

こうしたことを考える上で、会社に確認しておきたいこともあります。例えば「休業制度や私傷病休暇制度などがあるか」「フレックス制度や時短労働の制度はあるか」「在宅勤務(リモートワーク)はできるか」などです。これらの情報を得ておくと、一時的に仕事の時間やペースを変える、あるいは一時的に職種を変更するなどして、安心して治療を受けながら仕事を継続できるかどうかがわかります。

就業規則や制度に取り決めがなくても、会社側の配慮で同様の運用がされている方がいるかもしれません。子育て中や介護中などで、規則の範囲を超えた配慮を得ている人がいないか、職場の中で探してみることをお勧めします。
また、休業中の給与がどうなるのかも確認しておきましょう。
また、休んでいる間、仕事を引き継げる人がいるか(フリーランスや自営業の場合はピンチヒッターを頼めるか)も考えておくといいでしょう。
こうしたことについて、「がん治療のための上手な休みの取り方は?知っておきたい会社の制度」の記事も参照してください。

仕事を休んだりする際に、各種社会保障制度が利用できるなら、できるだけ利用しましょう。一定限度以上の医療費を補填してくれる「高額療養費制度」や、治療を理由に仕事を休んだことによってカットされた給与をカバーする「傷病手当金制度」などがあります。

そのほか、助けになる公的制度はいくつもあります。「がん治療で生活に困ったとき、支えてくれる公的制度」「がんにかかったら「障害年金」「老齢年金」「国民年金」もチェックしよう」などの記事も参照してください。

会社(上司や同僚、仕事仲間)にはどう伝えたらいい?

もしあなたが会社員なら、治療と仕事を両立するために、人事担当者や上司にがんと診断されたことを伝える必要があるかもしれません。必ずしも病名を伝えなければならないわけではありませんが、通院など、仕事に何らかの影響や配慮が必要な場合は、できるだけ具体的に伝える方が理解を得られやすいでしょう。
その際は、どのような配慮がどのぐらいの期間、どんな頻度で必要なのかを伝えると、企業側は仕事復帰までの道のりを考えやすくなります。もちろん、検査してみないとわからないことや治療の経過でスケジュールが変更されることもありますが、わかる範囲でこれからの目安を説明すればいいと思います。

必要に応じて、主治医に治療状況や業務上配慮すべき点が記載された意見書(がん治療のための上手な休みの取り方は?知っておきたい会社の制度)を作成してもらい、会社に提出することも考えましょう。

会社の中で誰にどこまで伝えたらいいか、というのも悩ましいところです。
会社や上司の理解と協力を得ることは、会社の制度を利用するためにも業務上の配慮を受けるためにも必要ですが、周囲の全員に病名を知らせなくてもいいのではないでしょうか。
がんに限ったことではありませんが、治療中ということで不利な扱いを受けることを避けたいという意味では、仕事に何も影響がないのなら、病気のことは伝えなくても良いかもしれません。一方、病名を伝えないことで人間関係のバランスが変化したり、コミュニケーションがぎくしゃくしてしまったりすることがあるかもしれません。

誰にどこまで、何を伝えるかはそれぞれの事情に合わせて考えましょう。場合によっては、上司から部署全体に病名は伏せた上で配慮事項を伝えてもらう方がいいこともあります。例えば、「チームの仲間に、お休みする期間は伝えて頂いても構いませんが、病名は心配をかけさせてしまので内緒にしておいて欲しい」というように、あなたの気持ちを伝えておくと良いでしょう。
がんであると伝えることで、「あなたをサポートしてくれる人たち」が増える、「あなたを助けたい」と思っている人がいるということも、忘れないでいてほしいと思います。

あなたの治療と仕事の両立スケジュールを立てましょう

ここまで整理した情報をもとに、もう少し具体的にこれから先の見通しを立ててみましょう。

仕事を継続しながら治療を受けるのか、一旦休職して治療後に復職するのかなど、復帰までのスケジュールは病状や治療内容によって変わってきます。自分で整理した情報を元に、大まかでも構いませんので計画を立ててみましょう。スケジュール通りにいかないのは常ですが、おおよそのスケジュールや目標があれば、治療の励みになり、前向きに治療に望むことができるのではないでしょうか。

がんになる前とまったく同じように仕事をすることは難しいかもしれませんが、治療を続けながらでも、周りの人たちの助けを借りながら、少しずつ仕事を再開し、仕事を継続していくことができる人もたくさんいます。がんの治療は入院期間が年々短くなり、働きながら治療を行うことができるようになってきましたので、ご自身の体調や気持ちに応じて考えてみましょう

さらに、厚生労働省も「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」(厚生労働省「治療と仕事の両立について」(外部サイト)) を公表し、企業に患者の就労に配慮し、治療と仕事の両立を推進するよう取り組んでいます。

とはいえ、焦ったり無理をするのは禁物です。治療や仕事との両立に悩んだ時は、まず「がん相談支援センター」や病院のソーシャルワーカーに相談してみてはいかがでしょうか。
全都道府県に設置されている産業保健総合支援センター(さんぽセンター)(外部サイト)でも、治療と仕事の両立支援の相談に応じてくれます。また、患者会やコミュニティサイト、下記の機関などに相談してみることもできます。

就労セカンドオピニオン ~電話で相談・ほっとコール~(外部サイト)
サバイバーシップ・ラウンジ(外部サイト)
ワーキャンズ(WorkCAN’s)、エピソードバンク(外部サイト)

【参考文献】
がん情報サービス「がんと仕事のQ&A」(外部サイト)
がんwith「両立するには?治療と仕事」(外部サイト)
※別ウインドウで開きます
 

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監修者
桜井 なおみ
一般社団法人CSRプロジェクト 代表理事 キャンサー・ソリューションズ株式会社 代表取締役社長 技術士(建設部門)、社会福祉士、精神保健福祉士、産業カウンセラー

大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にてまちづくりや環境教育などの業務に従事。2004年、乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がんを含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。