会社との間に生じた距離。がん患者になって感じた寂しさ
これはがんを経験して分かったことですが、お見舞いって必ずしもありがたいものじゃないですね。私は容姿の変化を見られることに抵抗があったので、職場の人たちにもお見舞いには来ないでと伝えていました。もちろん課長たちが顔を出しに来てくれて嬉しいと思うことはありましたが、そのときに会社のロゴが変わったと聞き、少しだけ寂しさを味わいました。会社の大きな変化すら人づてに知るなんて、在職はしていたものの、もう私は会社の一員じゃないんだなと。
私の勤めている会社では、産休中の社員にはタブレット端末を支給するんです。休んでいる時でも会社の様子が分かるようにといった配慮で、とても良い取り組みだと思います。一方で私のような長期入院をしている社員には、治療に専念させるためタブレット端末を支給しない対応。電子掲示板も閲覧できず、会社との繋がりが一切絶たれたような状況に。長期不在者は、セキュリティの問題からIDカードを使用できなくなったので、社内に入れなくなったことも寂しかったです。
入院中に異動の辞令、早く職場復帰したかった
抗がん剤治療中に東京への異動の辞令が出ました。会社から妻に連絡が入り「引っ越しは会社側で全てやるから、家の鍵だけください」と言われたそうです。単身赴任先には必要最低限の衣類と少しの私物しかなかったので特に困ることはありませんでした。ただ一つだけ、妻が単身赴任先の家に来たことがなかったので「あなた、一体どういう所に住んでいるの?」と聞かれましたね。
入院生活が長かったので、退院直後は体力の低下を感じました。どれくらい落ちてたかと言うと1日100m歩けるかなという程度。職場復帰までの3週間は、歩行訓練に毎日時間を使いました。その甲斐あって、職場復帰までには2〜3kmは歩けるように。通勤時間も15分程度なので、もう大丈夫だろうと思いました。そう言えば、歩行訓練として近所のショッピングモールの中をよく歩き回っていたのですが、それを職場のメンバーに目撃されたらしく、復帰後に「なんですぐに戻ってこれなかったの」と言われたことも。
個人的には、何もすることがない生活に退屈さを感じていたので早く職場復帰して働きたかったです。当時の人事規定では、休暇・休職制度を利用後、さらに長引く場合は退職する必要があったので早く復職しなければという気持ちもありました。
フルタイムで復帰、メンバーの気遣いに笑顔
産業医面談を終えた6月末に職場復帰。以前在席していた部署への復帰であったことから、メンバーはほとんどが知っている顔。働く上でこれといったストレスはなかったです。最初からフルタイムで復帰しましたが、残業は禁止。無理せず早めに帰宅するよう心掛けていました。
復帰直後にあったエピソードで記憶に残っているのが、復帰前に免疫力が低下していることを伝えたところ、復職日にメンバー全員がマスクで出社していたこと。逆に私はマスクをしておらず、メンバーからは「皆、Iさんのためにマスクしてるんだよ!なんで本人がマスクをしてないの?」って叱られました。「いや、そこまでは必要ないから、大丈夫、大丈夫」なんて答えてました。
むくみと脱毛。見た目が別人のように
職場復帰こそできたものの、見た目はまるで別人でした。脱毛しているので髪もなければ、まつ毛、眉毛もない。ステロイドホルモンの副作用で顔は丸くパンパンのいわゆるムーンフェイスに。顔以外であれば手足も辛かった。手は末梢神経障害とむくみで、常に手袋をはめているような感覚。書類がうまくめくれず、仕事にも支障が出ました。足もむくみで靴が履けず、ウエストも閉まらないほど。今までの洋服も着られないほど体型が変わってしまいました。
ただ、時間が経てば元に戻ると思っていたので、容姿の変化についてはそこまで深刻には考えず、現状をすべて受け入れていました。ステロイドが抜けていくにつれ、半年ぐらいでむくみは消えたと思います。